仲正昌樹『今こそアーレントを読み直す』(講談社現代新書)レビュー

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)



 右からも左からも批判される丸山眞男とは違い、両者から一定の支持があるアーレント。共和主義保守だけでなく、リベラル派論者からも肯定的な視線を送られるのは、全体主義との思想的対決はもとより、コミュニケーション行為の論脈の淵源のひとつと目されているからだろう。アーレントの知的遺産をこれからどう活かすのか、著者がアーレント思想の要諦をコンパクトにまとめて、一般読者に提示する。アーレントにおける「政治」とは、なによりも「複数性」を追求するものだった。どのような「解放」の思想も、「複数性」を抑圧するなら、全体主義に堕してしまう。アーレントの理想とする共和主義的な自治空間は、「私的領域」を排除した「政治」空間だが、彼女の一筋縄ではいかない思考に風通しのよさを感じるとすれば、まさにそれゆえに、経済的利害に絡め取られる「私」からの「解放」になり得ているからだろう。