深木章子『鬼畜の家』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 (…)今考えれば、あたしは自分を意識的にコントロールしているつもりで、知らず知らずのうちに本当に病んでいたのだと思います。(p.128)

鬼畜の家 (a rose city fukuyama)

鬼畜の家 (a rose city fukuyama)


ミステリアス
クロバット
サスペンス10
アレゴリカル
インプレッション
トータル45


 大満足。本作のアドバンテージは、選評で島荘も言っているように、熟年世代の冷徹な人間・社会洞察が、小説の細部に遺憾なく発揮され、それが発動されるギミックをより生々しく修飾するいところにあるのだろう。ありえない話のリアリティの肉付けに用いられた狂気と欲望に対置するかたちで、一抹のイノセントを添え、小説内のバランスを取っているのに、あざとさを感じさせないのも脱帽。21世紀でも、クリスティ的な行き方に可能性があることを証明した。