河野哲也『道徳を問いなおす リベラリズムと教育のゆくえ 』 (ちくま新書)レビュー



 「道徳的」であるということは、「利他的」であるということである。この「利他的」ということをどう解釈し展開させるかによって、保守とリベラルは決定的に対立する。私見では、個々人が“みんな”に奉仕するという方向性が保守で、個々人がお互いに奉仕しあうという方向性がリベラルだ。本書はリベラルの立場からの道徳教育論であり、「道徳的」な社会を達成させるためには、民主主義社会がより「包括的」に進展していくことが必要であるとの立場から、道徳教育は必然的に政治教育、「主権者」教育の相貌を帯びることになると、熱弁する。リベラリズムからの保守主義、共和主義への批判という側面もあり、読み応えがあるが、ケアの倫理学やケイパビリティ・アプローチから討議民主主義へとつなぐ論理に政治的正当性があることを、説得的に論じている。