綾辻行人『奇面館の殺人』(講談社ノベルス)レビュー

本日のエピグラフ

 「(…)顔などというものは、こうして同じ仮面を被ってしまえば、どれも同じ“形”になるのですからね。上っ面――表層が同じであれば、それで充分なのですよ。(…)」(p.106)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル45


 むふふ、と含み笑いをさせてくれるのは、久しく付き合ってきたせいかしらん。分厚いけれども、中編的感覚で読めるのは、作者の達意の文章芸の賜物。この文章芸は、幻想の領域を垣間見せるというより、閉鎖空間の瘴気を、外部へと流しているように感じられる。作者の持ち味は、彼岸によって此岸を描くことにあると、今更ながらに思い知る。