野崎六助『山田風太郎・降臨 忍法帖と明治伝奇小説以前』(青弓社)レビュー

山田風太郎・降臨―忍法帖と明治伝奇小説以前

山田風太郎・降臨―忍法帖と明治伝奇小説以前



 大著『日本探偵小説論』の姉妹編と言ってもいいだろう。前著では、植民地主義の影を追跡するのが、テーマの一つだったけれども、本作は、戦後日本探偵小説の「死角」を追及するのが、潜在するテーマである。狭義では、「領土としては旧植民地、人間としては在日少数民族」ということになる。問題はそれが表象しながら隠蔽してしまうもの、それこそが戦後日本探偵小説の真の「死角」だろう。前半から中盤にかけては、当然風太郎論であるが、この後に置かれるのが「戦後探偵小説論」、風太郎以外の探偵小説家たちの重要作品を、高木彬光の二つの「死角」小説で挟んで論及する。風太郎的探偵小説が、限界に達したのはなぜか。社会的復讐を遂行する「神」の存在を、これ以上ない完成度で描き出してしまったからだ。一方、高木は、風太郎との合作『悪霊の群』に秘められたポテンシャリティをそのまま受け継ぐかたちで、独自の社会派路線を構築する。探偵小説と訣別した風太郎の描く忍法帖はもちろん、高木的社会派ミステリにしても、高度経済成長以降の日本に受け入れられながらも、「帝国の死角」へ一撃を入れるには、距離感がありすぎたのだろう。