佐藤健志『僕たちは戦後史を知らない――日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)レビュー



 ついこの前までは、この国を言い様のない逼塞感が覆っていたように思うが、今現在、それを通り越して、何か巨大な虚脱感と、それと一体の無様に弛緩した空気が取り巻いている。臆面もないバブル経済の歓待が、その象徴だろう。二十年余り前のバブル崩壊の轍を踏もうとしているのだ。まさに、著者のいう「リピート機能」が、また働いているというべきではないか。本書は、四年前に「幻想政治学」を唱えた著者による、戦後精神史の決定版だ。日本が敗戦を迎え、それを「終戦」として記憶を改鋳した、そのウラには、「負けるが勝ち」という欺瞞のカラクリがあった。「八紘一宇」という日本の戦争目的を、戦勝国であるアメリカが実質的に引き継ぐとき、「アメリカ=真の日本」という大欺瞞の図式が、戦後日本の精神性を規定する。ところが、「終戦」から三年後の逆コース路線によって、「戦後」を規定するファンタジーは、保守と左翼に分裂することになる。冷戦構造下のアメリカ(=「真の日本」)に追従する保守に対して、「終戦」直後のアメリカ(=「真の日本」)を根拠に現実のアメリカを否定する左翼。後者は、六〇年安保闘争から後、迷走に迷走を重ねることになる。保守の方も、左翼退潮後、己のシュールなアイデンティティーを強化して、袋小路に陥る。戦争に負けて国土を占領された、という事実を抑圧した結果、「負けるが勝ち」というグロテスクな幻想を構築して、戦前を否定も反省もすることを避けた日本人。結果、「何でもあり」という政治態度が常態化して、「戦後」が半永久的に繰り返すことになる。著者が、最後に示唆しているように、傍らでは、中国が大東亜共栄圏の夢を実現しつつあるように見える状況が出来している。