加藤典洋『さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて』(岩波書店)

さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて

さようなら、ゴジラたち――戦後から遠く離れて



 九十年代後半のいわゆる『敗戦後論』論争は、ポストモダン左翼知識人が束になって、著者に批判の集中砲火を浴びせたが、にもかかわらず、その空論にアクチュアリティを確保することができず、結果的に失墜していった。彼らの言説は、いまや『世界』でもめったに目にすることはない。しかし、この論争の余波が、いまや英語圏にも広がっていることを、著者は本書の冒頭で、著者自身に対する批判への応答の仕方の反省の念をこめて、綴っている。本書は、『敗戦後論』をフォローするエッセー二編と、近年の「戦後」をめぐる政治・文化エッセー四編を収録する。「ノン・モラル」の権利の重要性を語る前半、後半は表題にある通り、「ゴジラ」=戦死者たちをめぐる問題性を扱っている。著者はゴジラ靖国神社を破壊させることを望むが、果たしてどうだろう、戦前の戦死者たちが、それそのものとして、純粋化されて、さらにシンボリックな存在にまつりあげられないか、と思ってしまうが。そしてそれは、掉尾を飾るエッセー「六文銭のゆくえ」の問題意識を裏切らないか。