宮脇俊三『殺意の風景』(光文社文庫)レビュー

本日のエピグラフ

 推理小説の読みすぎではないか、彼は。(「第十三話 硬玉産地の巻」P169より)

殺意の風景 (光文社文庫)

殺意の風景 (光文社文庫)



ミステリアス
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インプレッション
トータル41


 いやー、光文社文庫の新刊として、いきなりリバイバルされたのには、おったまげた。題名だけ聞いていてまだ未読だったんで、即座にゲット(なんかすぐ書棚から消えそうな気がしたんで)、読んで満足。もっと小説書けばよかったのにー。阿刀田高とはまた違ったエスプリの利かせ方を堅持したまま、もっと小説を発表していれば、なんら大げさでなく、現代(日本)ミステリの裾野は広がったかも。――本作品集は、紛う方なく「奇妙な味」に属するもの。すれっからしであればあるほど、作者の“毒”がじわじわ効いてくる。これを、「推理小説」なるものに対する当てこすりというには、なんともいえないペーソスが色濃く漂うのだ。――淡々と狂気の醸成を綴って間然するところがない「第七話 火砕流の巻」、最後の二行における文章技巧の冴えに脱帽「第十話 豪雪地帯の巻」、まさしく「奇妙な味」の王道「第十七話 噴火口の巻」ほか、アリバイトリックのパロディや不条理な悲喜劇を経たあとで、「須磨」という地名を掲げる「第十八話 海の見える家の巻」で、見事に洗練されたブラックユーモアを披露して、連作集を締めくくる。……これで500円は、安っ!…………若い女性の一人称が、宇能鴻一郎っぽいのは、ご愛嬌。