島田荘司『帝都衛星軌道』(講談社)レビュー

本日のエピグラフ

 ところが東京はというと、みんな衛星軌道なんです。(P331より、傍点強調部省略)

帝都衛星軌道

帝都衛星軌道


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル10 
インプレッション7 
トータル41  


 いかにもこの人らしい都市論ミステリ。ただ、同じタネだったら、もっとド派手なイリュージョンを展開できたと思うのだけれども。――ここのところのネタ振りの抑制は、後半、島田読者には周知の現実の事件を模した惨劇が出てくるのに、物語内部の均衡を図ったせいだろう。
 物語の結部で、東京の都市計画は現在に至るもなお、「実は大正当時の帝都復興という発想そのまんまなんです、震災後の」という登場人物の発言が出てくる。そしてこれが東京の独特の軍事都市化の端緒となるが、戦後、加藤典洋が『日本という身体』で詳らかにしたように、「高」に象徴された時代精神とそれを具現化したような数々の建築物や交通インフラ群は、まさに“帝都”の陰画にほかならない。――表題作を分断するように挿入される中編「ジャングルの虫たち」で、「弱い羊」の敵として、「虎」と「蛇」の比喩が示される。それぞれ都市における潜在的暴力を象徴するのだが、『都市のトパーズ』で「虎」が高速道路を疾駆したことを想起すれば、都会という場所がその温床となっていると言われる「蛇」は、時代を貫通する“悪意”の様相を、その感触をあからさまにする。
参考http://www.harashobo.co.jp/online-shimada/shukan/backnumber/index242.html