北川歩実『運命の鎖』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 (前略)羨ましいって言いました(中略)あなたのいらない遺伝子は取り除けるけど、わたしのいらない遺伝子は取り除けない、って(第三話「子供の顔」P158より)

運命の鎖 the geneticfuture (創元クライム・クラブ)

運命の鎖 the geneticfuture (創元クライム・クラブ)


 
ミステリアス8 
クロバット10 
サスペンス8 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル42  


 本年屈指の怪作かも。五編からなる連作短編集だけれども、各話どんでん返しの釣瓶打ち。そんなことはなっからいっていーの、って言われるかもしれないけれど、だって最初のどんでんがあったところで、残りが半分以上あるんだもん、全部のお話に。あっちからこっちへどんでん返して、こんどはそっちへどんでん返すと転がされているうちに、そもそもどんなお話がどんでん返されていたんだっけ、と一話読み切っていないうちに記憶が曖昧になる始末。各話、多重反転劇を可能にする複雑な物語の設定が、一気に説明されるので、いささか面食らう。もうちと“小説”に溶かし込んでほしかったな。――「服を着たサル」ならぬ「服を着たDNA情報」とでもいうべきヒトたちの織り成す策謀と欲望の人間喜劇、“遺伝子”がテーマなだけに必然的に親子関係がクローズアップされてくるけれども、親‐子がエゴイズム的に解体されるのを修復せんとするような最終話の“父”の像は、いかにもとってつけたようで、むしろ、エゴイズム的解体を徹底させた第三話「子供の顔」が、笑うに笑えない前世紀からのリアルを戯画して余りある。