歌野晶午『密室殺人ゲーム王手飛車取り』(講談社ノベルズ)レビュー

本日のエピグラフ

 対して今回のゲームはリアルタイムに進行している。(中略)譬えれば、従来の探偵ごっこがスタジオレコーディングで、今回のはライヴ。(P342〜343より)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社ノベルス)


 
ミステリアス9 
クロバット9 
サスペンス10 
アレゴリカル10 
インプレッション9 
トータル47  


 作者の言を信じれば、本作のアイディアを思いついたのは(作者のデビュー年であるけれども)、宮崎勤事件の前年ということになる。劇場型犯罪サイコパスが絡み出して、“時代”の空気を変容させたわけだが、<メディア>の増幅効果もあって、社会のセキュリティ志向昂進の一端を担うことになる。で、本作はまさしく密室クローズドな「殺人ゲーム」、いうなれば、アンチ劇場型犯罪なのだ。劇場型犯罪者の昏い欲望が、“世界”を自己の作為で攪乱することを志向して、それに<メディア>が寄与しているとすれば、アンチ劇場型犯罪においては<メディア>が逆に“世界”との遮断装置に奉仕される。<労働>のコストとベネフィットが均衡をどう逸しているかで、作為の歪みの度合いとその位相がはかられる。無差別大量殺人が、インナーサークルのネタでしかない――そこに幾許かの“実存”性があろうが。であるから、やはり当時は、これは早すぎた作品ではあったのだ。だからといって、“時代”が本作を物するのに合ってきた、というよりは、作者の『ROMMY』以降の試行錯誤を経たことが、この「リアル推理ゲーム」のリアリティを可能にさせたとみるべきだと思う。ラストは、遮断装置としての<メディア>という観点からは、必然。…………それにしても、Q5「求道者の密室」は、違う“解答”を思いついていたのだが、それがああなってこうなるとは…………もしかして、作者の掌の中?