深谷忠記『傷』(徳間書店)レビュー

本日のエピグラフ

 いずれにせよ、それは他人に負わされた傷ではない。(中略)責任は自分にある。だから、辛くても苦しくても自分でその痛みを引き受けて生きていかなければならない。(P329より)

傷


 
ミステリアス8 
クロバット9 
サスペンス8 
アレゴリカル7 
インプレッション8 
トータル40  


 もうすっかり待ち遠しくなってしまった深谷忠記の年に一度の新作(って、もっと書いてほしいけれども)。今回は、古式ゆかしい社会派タッチで前半は迫ってくるので、ほほーと思っとったわけなんですが、後半は、はっはー、と。最後の最後のクライマックスシーンでは、鳥肌鳥肌。フェミニズムの扱いについては、文句をいうひとはいるんだろうけれども、「個人的なことは政治的である」というテーゼを、エゴイズムの正当化に資させて、“操り”という支配‐従属の関係性を作為した欺瞞に、“法”の作用可能性を以て対抗させたあたりに、鋭敏な批評性を感じるのだけれども。