上杉隆『官邸崩壊』(新潮社)レビュー

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年



 
ちゅうことで、『官邸崩壊』刊行直後に、政権崩壊してしまったワケです。南無阿弥陀仏。…………『官邸崩壊』は、画餅が病院坂を転げ落ちたような(なんて喩えだ)、アベちゃん失墜の一年未満を、講談師を思わせるような歯切れいい語り口で、剔抉したドキュメント。一応、シンちゃんが首を縊るまでの間を浚っておくと、水に落ちた犬を打つが如く、産経以外のマスコミ屋さんたちは、改造前・後の閣僚のセンセイたちをいじり倒したわけですね。それでもって、総理はテロ特に「職を賭す」「職責にしがみつかない」inオーストラリア、と。上杉は『官邸崩壊』刊行後、週刊文春でアベシンのオカルト人脈と「お告げ」人事の一部始終をスクープし、また週刊現代は時効ではあるが巨額の相続税脱税疑惑の巻頭スクープを用意し、連休前発売の号の超目玉にしていた矢先の、「自爆テロ」(by田中康夫)。首縊りの前から自爆する覚悟の言質を取っていたアソーさんは、オノレから情報をリークしたんだかしないんだか、とにかく短期決戦でてっぺんをゲットしようとしたけれど、党内の人望が思ったほどなく、これまた見事に後追い玉砕、あとは地方票頼み風頼みで、お神輿に鎮座ましますフク翁に、背水の陣を敷くことになる。と、今度は週刊朝日の上杉記事では、ぬわあんと、アソー&ヨサノに裏切られたドタキャン王子、最後の最後に敵主オザワに救いを求めたんだそうで。それがあの、「会談を断られた」発言の真意だったという、元清和会の人物のコメント。…………『官邸崩壊』は、増補版が出るのかも。内容については、各メディアのパブなんかで大枠は示されているので、とにかく後は読んで、そして笑うべきところは、素直に笑うべし。“政治”絡みのドキュメントで、近年ここまで戯画的に読めるものは、皆無である。ワタクシ的にはいちばん笑えたのが、山谷えり子教育再生会議のゆかいな仲間たち。DJ OZMA批判の件には、腹を抱えましたね、あたしゃ。あと、準主役というべき(もうすぐ元)秘書官殿は言わずもがな、従軍慰安婦問題の首相個人の見解をアメリカへ見事に「広報」したミスター「コミ戦」、総理のために健気にも「チーム安倍」をフォローするのに必死な一太サン――と、この人には、涙、だけれども。笑いすぎて、じゃないよ。ともあれ、出てくる人、取り上げられる人、皆キャラが立っているのは、著者の筆捌きの妙である。…………さて、しかし、この安倍総理辞任を、どのような文脈で、果たして捉えるか。アメリカの一連のネオコン派の失脚に連なるものとして、とりあえずは位置づけられるのだろうが、気脈を通じた外務省某高官――彼が、首相外交デビューとしての訪中・訪韓のお膳立てをした――の、そのウラの人脈をもう少し知りたかったなあ、と。いずれにせよ、著者が本書の末尾で暗示しているように、「構造改革」の時代は終わった、と見るべきだろう。アメリカのバブル処理、というかアメリカ発金融恐慌の収束如何では、また再び「内需拡大」要求が日本になされるかもしれない。バラマキには限界があるとすると、消費者金融の拡大を通じて、低所得者層を借金漬けにするプランが徐々に全面化するかも。ゆうちょ銀行が個人向け金融に本格的に乗り出したら、ちょっとヤバイんじゃないか。アメリカと同じく「双子の赤字」大国に向けてまっしぐら? …………と、本書と関係ないことを、ずらずらとしたためましたが、総裁選に絡んでコイズミとイイジマが決裂したっていうし、何らかのブラフかどうかは分からないけれども、次の衆議院選挙は「第3次角福戦争」、日本政治のハルマゲドンの帰趨は、如何なるものか。