武田徹『殺して忘れる社会――ゼロ年代「高度情報化」のジレンマ』(河出書房新社)レビュー

殺して忘れる社会---ゼロ年代「高度情報化」のジレンマ

殺して忘れる社会---ゼロ年代「高度情報化」のジレンマ



 ゼロ年代後半に紙上に連載した社会批評集。五十本弱のコラムは、そのどれもが読み応えがあり、放言戯言の類は、一切ない。メディアの変容に伴う然るべきリテラシーの涵養は、現代社会を維持するための“倫理”という問題系に直結する。タイトルにある「殺して忘れる社会」とは、私見では、消費の高速度化社会の謂いである。「高度情報化」とは、「高(速)度情報(消費社会)化」と読み替えられなければならない。ヴィリリオのいうように、“速度”は人間に政治的に干渉し、支配する。著者は、バッシングと無関心の相互作用による他者の存在の軽視化ととらえるが、その前提として、“他者”の存在が覚知できぬほど、「情報」それ自身の“速度”は社会を覆いつくしているとはいえるだろう。社会問題に対するリテラシーとそのあり方は、そのままジャーナリズムと、社会の制度設計即ち各種政策の実効性に関する議論に跳ね返ってくる。ゼロ年代後半に起きた数々の事件等を回顧しながら、“速度”への抵抗の諸位相を閲したい。