佐々木敦 『ニッポンの思想』(講談社現代新書)レビュー

ニッポンの思想 (講談社現代新書)

ニッポンの思想 (講談社現代新書)



 説き語りニューアカ以降の「日本の思想」。柄谷蓮実浅田中沢の「八〇年代」と福田大塚宮台の「九〇年代」のあいだに横たわる「重要な差異」は、「イデアル(理念)」と「リアル(現実=現在)」の違いに還元される(「天皇」をめぐる価値判断を象徴として)という認識は、北田暁大の『嗤う日本のナショナリズム』とも通底するもの。ゼロ年代の試行錯誤を経た東浩紀の役割は、やっぱり新しい論壇のプロデューサーみたいなものなのかしらん。本書の特筆すべきことのひとつは、柄谷‐福田‐東と続く“他者”もしくは“外部”をめぐる思考を「ニッポンの思想」の文脈から剔出したこと。他でありえたかもしれない「(不)可能性」をどう認識するか、あるいはどう処置するか。著者の文脈に従えば、東の立論は、柄谷と福田のそれを止揚させたものということになる。「リアル」はつねに「幽霊たち」に脅かされつつ、その「宿命」を全うするだろう。ポスト・ゼロ年代は、ポスト・「リアル」の時代でもある。さてさて……