石川康宏  内田 樹『若者よ、マルクスを読もう』(河出書房新社)レビュー

若者よ、マルクスを読もう (20歳代の模索と情熱)

若者よ、マルクスを読もう (20歳代の模索と情熱)



 マルクスは、入門書に恵まれない思想家だよなあ、と常々思ってきた。理由は明白で、ある一時代の“教養”科目だったのが、その時代が終わりを告げると、イデオロギーとして葬られるか、反対に強化されるかに分裂して、全くの信・不信の“問題”に還元されてしまったからだ。ある種のエセ神学になったというべきか。内田が述べるように、19世紀の資本主義において、児童などの社会的弱者の労働状態は過酷さを極め、マルクスの檄文にも似た思想的文章は十二分にリアルであったし、石川が指摘するように時代的制約(民主主義的議会制度がまだ未発達であった、とかの)のもとで、激しい思想のコトバを紡がねばならなかった、という内実を欠いた“思想”の伝達は、過去の記憶を現在に焼きなおすこともできないわけだ。この大前提を踏まえたうえで、石川は二十代の思想青年マルクスの情熱と試行錯誤を個々のテクストで閲し、内田は青年マルクスの天才性とその限界を批評する。