内田樹『武道的思考』(筑摩選書)レビュー

武道的思考 (筑摩選書)

武道的思考 (筑摩選書)



 記念すべき筑摩選書シリーズの劈頭を飾るのは、内田樹の武道論集。フランス現代思想がわが国にもたらした果実である反主体の問題意識が、著者の明敏犀利な身体論とコラボして、私たちのの肉感的な現実、体験的な世界の実像を描き出して、それが「生き延びる力」を涵養するのに必要な土壌であることを感得させる。冒頭には武道教育批判のエッセーが置かれるが、私見では、これは三島由紀夫あるいは三島的なるものに対する批判的射程を有している。近代批判が単純な西洋批判に還元される愚を避けられているのは、身体を通した“他者”たちとの交歓の構造が、その分析的アプローチが、必然的に倫理性の探求へと、話がつながるからである。