吉田恭教『変若水』(光文社)レビュー

本日のエピグラフ

 「うん……。農地解放のあとも、あの一族に楯突く者はおらんかったよ。米の販売ルートも牛耳られとったけんな。農地解放とは名ばかりで、以前と何ら変わることはなかった」(p.238)

変若水

変若水



ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル
インプレッション
トータル44


 今年の福ミス受賞四作はどれも力作。『鬼畜の家』以外はあまり書評で取り上げられないので、読みのがすことなかれ。本作は伝奇ミステリに医学トリックを組み合わせた意欲作で、トリックを成立させるために打たれた執拗な布石が、黒幕の常軌を逸した情念とつりあっているのをみれば、作者が物語内部のエコノミーを十分計算したのを見て取れる。乱歩賞受賞の某作がファンタジーに見えるくらい、おどろおどろしいが、随所にユーモアも仕込まれて、緩急の付け方がプロレベル。