愛川晶『ヘルたん』(中央公論新社)レビュー

本日のエピグラフ

 だとしたら、認知症になった探偵も、その技能の記憶に手助けされ、かろうじて探偵たり得るかもしれない。そんなことを考える私は、すでに頭がどうかしているのだろうか。(p.212)

ヘルたん

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 神田紅梅亭寄席物帳シリーズは、現代本格の屈指のシリーズだけれども、どうも作品の質に見合った高評が、量的に少ないなあ。作者や作品のせいじゃないよ。で、この状況が続けば、本作もスルーされるかも。介護福祉の現場を舞台にした社会派ミステリなんて思っていると、読み損ならぬ読まな損をしてしまいます。上に引用した文章からもわかるように、探偵の身体的アイデンティティーという主題性が伏在して、介護現場のアクチュアリティに題材を求めたこの作品の、本格ミステリとしての構築性、その達成度を高めた。人情話としての見せ場も抜かりない。