相沢幸悦『GNP大国になる日本 円高で所得収支60兆円の2022年』(講談社)レビュー

GNP大国になる日本 円高で所得収支60兆円の2022年

GNP大国になる日本 円高で所得収支60兆円の2022年



 ついに所得収支時代がやってきた。日本の経常収支黒字を支えているのは、貿易赤字を帳消しにするほどの、莫大な所得収支黒字である。1993年に日本政府はGNP(国民総生産)からGDP(国内総生産)に統計指標を改めたが、日本国民の富を表すのには、GDPに所得収支分を加えたGNPが相応しい状況になってきている。世界が大不況モードで、とても楽天的にはなれないものの、著者の主張は、為替レートを1ドル=70円で固定するように為替介入して、それで5倍程度に増えた外貨準備をリスク資産に積極的に投資せよ、というものだ。円高基調を受け入れることで、国内の産業転換を促し、日本マネーで海外投資を行い財政基盤を確かなものにする、という経済戦略は、合理的なものだけれども、著者が最後に主張する政府債務の株式転換は、無意味なことをやっているような気がする。ともあれ、現状で切れるカードがどのくらいあるのかを把握するのに、著者の主張は批判的に吟味したい。