西村周三 井野節子『社会保障を日本一わかりやすく考える』(PHP研究所)レビュー

社会保障を日本一わかりやすく考える

社会保障を日本一わかりやすく考える



 医療経済学の第一人者が、対話形式で「社会保障」の経済学を、ホントに「日本一わかりやすく」レクチャー。医療財政の運営上の局所的な言及ばかりクローズアップされて、本質的な制度疲弊の問題や、そもそもの制度の根本原理などに目がいかない状況に、とても有難い本です。社会保障とは、要するに所得再分配を基本機能とすること。医療や介護は現物給付で、「再配分」を行っている。とするならば、制度の求める保険のあり方として、若者も高齢者も、所得に応じた保険料負担が正しいことになる。歴史的経緯もあって、バラバラな保険制度が維持されてきた結果、同一の所得でも保険料負担にかなりの差が生じているのを、是正するねらいもある。もうひとつ、著者が指摘する重要なことは、医療費の高額化は、人口構成の高齢化もさることながら、医療技術の進歩が大きな要因として挙げられること。このために、著者が提案するのは、将来の技術進歩分の高額化を、通常の保険料に付加して徴収したお金を積み立てて、これに対応するということである。*1各国の医療制度事情も、極めてわかりやすいかたちで比較考量されており、非常に有用だ。もっとも、データ比較の結果、朧げに見える日本の高齢化社会の予想図は…………実際に本を読んで確かめられたい。いずれにせよ、総額33兆円にも及ぶ医療費*2は、そのまま医療産業の市場規模ということでもあり、適切な公共投資が行われることが期待されるが。

*1:この積立金は、医療業界の株式で運用すると、医療技術進歩分のコストの一部が、株式配当として還流することになる。

*2:このうち約半分は、人件費である。