三津田信三『幽女の如き怨むもの』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ

 ただ、夢を見る必要があったのです。女であるが故に、自分たちは女郎ではなく花魁なのだという幻想が、どうしても必要だったのです。(…)(p.263)

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)

幽女の如き怨むもの (ミステリー・リーグ)



ミステリアス10
クロバット
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション10
トータル48


 本作でフィーチャーされる怪異は「幽女」だが、これは「遊女」にあからさまに掛かっていることからもわかるように、このシリーズの従来の怪異と違って、積極的に措定されることはない。まさに「幽か」という言葉通りに、その気配が示唆されるだけだ。その代わりに、廓という異界の内部空間が描き込まれることになる。怪異という“外部”が、この異界性によって、物語内で相対的に消極的な位置に追いやられるが、このことが本作のリドルストーリー性を担保する。作者は、これまでになく物語空間を不安定にさせているが、それは外部性が、怪異とはまた違う何か畏ろしいものに委ねられているからだろう。――不在の神は、“内部”という循環性を、能く断絶させるだろうか。