高橋源一郎『非常時のことば 震災の後で』(朝日新聞出版)レビュー

非常時のことば 震災の後で

非常時のことば 震災の後で



 文学者、小説家としての著者のリアクション。焦点は、コミュニケーションの根底にあるもの、この必然性の探求ということになるだろう。「ことばが通じない」者たちの代表としての「死者」。「非常時」において、彼らの存在が露出するが、もうひとつの「ことばが通じない」者である「子ども」を「肯定する視線」となって無化した「私」という存在形態が、「死者」をコミュニカティブな空間に招来するための補助線となるのだろう。ただ、文藝春秋に載るような政治屋のコトバを批判するのに、内田裕也の「演説」を持ってくるのは、本意はあからさまだけれども、あまり上手くない気がする。