増田悦佐『世界は深淵をのぞきこみ、日本は屹立する』(東洋経済新報社)レビュー

世界は深淵をのぞきこみ、日本は屹立する

世界は深淵をのぞきこみ、日本は屹立する



 ケインジアンとリフレ論と反増税が一方の極とすれば、もう一方は反ケインジアンとデフレ容認と増税容認=国債暴落論の連係をなす。で、著者の立場は反ケインジアンでデフレ容認だけれども、日本国債優良商品論である。客観的状況を鑑みれば、欧米の国債が不安定であることは確かで、日本国債を売り払っても、価格が暴落したぶん別の買い手がすぐにつく。日本経済のファンダメンタルズが激しく毀損されないかぎりは、「ローリスクローリターン」という安定した収益構造で、「日本は屹立する」。本書は、インフレという借金の部分的踏み倒し政策を採用した基軸通貨アメリカへの批判もさることながら、国ぐるみのキャリートレードに踊ったEU諸国への辛辣な評価が際立つ。著者の階級社会に向ける冷徹な視線は、頼もしい。そして、日本政府の金保有に対する手立てのなさを難じるのは、経済論客における保守派たるゆえん。