森博嗣『封印再度』(講談社文庫)レビュー

本日のエピグラフ

 あのような、己を殺した生き方が本当にできるものか、と思いもいたしました。(ノベルズ版P362より)

封印再度 (講談社文庫)

封印再度 (講談社文庫)


 
ミステリアス8 
クロバット8 
サスペンス8 
アレゴリカル9 
インプレッション8 
トータル41  


 ’98本格ミステリ・ベスト10第9位。わけあって再読。「理系ミステリ」の新人というラベリングを引き受けていたころの意欲作。日本的スノビズムにおける「無償の自殺」をテーマに据える。物理的トリックがやはり際立っているが、マテリアルに対する執拗な拘泥が、「理系」と「日本的スノビズム」の間を媒介するのだ。と同時に、そのような「宇宙」を最終的に所有できるのは、「宇宙」内に埋没していった人間なのか、その「宇宙」に外在する人間なのか、というある種の“欲望”の帰趨をめぐる物語でもある。……で、このような物語の中で、“結婚”というものが扱われるのは、やっぱりコレも形式主義のひとつというメッセージなのかなあ。……あと、後続の某新本格作家がラブアフェアーにこだわって空回ってもなお止めないのは、このシリーズの成功によるところが大きいのだろう。