蒼井上鷹『ハンプティダンプティは塀の中』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ

 問題はそれだけではない。ここで本格的な争いを起こしたら、結果がどうなろうと、もうこの部屋に平和は戻ってこない。毎日の生活は地獄に変わる。それに耐えられるか。(「第三話 我慢大会は継続中」P167より)

ハンプティ・ダンプティは塀の中 (ミステリ・フロンティア)

ハンプティ・ダンプティは塀の中 (ミステリ・フロンティア)


 
ミステリアス8 
クロバット9 
サスペンス8 
アレゴリカル8 
インプレッション8 
トータル41  


 作者のデビュー短編集のレビューで、「作者の持ち味は、ディスコミュニカティヴなキャラクターの描出にあるのではないか」と記したけれども、<本格>をあからさまに意識した本作でも、遺憾なく発揮されている。第一話の悪意が高じて他人の庭に侵入してくるオバサンと第三話の「オレがオレが」キャラのサラリーマンの造型は秀逸だなあ。でもいちばんのディスコミュニカティヴさを体現しているのは、<名探偵>と“語り手”。“信頼できない”キャラ造型が、密室のなかでの腹の探りあいのスリルを否応なく盛り上げる。伏線の張り方はやや緩いと思われるけれども、それがある種の胡散臭さを醸しだす効果がないとはいえないだろう。果たして、最後に明かされる真相は…………?