辻真先『ぼくたちのアニメ史』(岩波ジュニア新書)

ぼくたちのアニメ史 (岩波ジュニア新書)

ぼくたちのアニメ史 (岩波ジュニア新書)



 なぜ、「ぼくたち」なのかは、おそらくは、この国の戦後のサブカルチャーの一翼を担ってきたという自負を見る。といっても、生けるアニメ史たる著者の語り口には傲慢さは微塵も見られず、未だ衰えぬ平易闊達な文章で、戦前の「漫画映画」体験から、NHK時代に平井和正に誘われたことがきっかけで、黎明期からTVアニメのシナリオ執筆に携わったこと、様々なエピソードを交えて、次々に誕生した制作プロダクションのそれぞれの動向を中心に、戦後アニメ史の孕む独特の熱気を説いていく。昔日の作品群を紹介するのに、現在の作品が適宜参照される手つきがごく自然なのが、生ける歴史たるゆえん。――というか、『火垂るの墓』を絶賛するのに、自身の空襲体験を引き合いに出すのだから、もうかないません。…………『ヤマト』『ルパン三世』『ガンダム』そして『エヴァンゲリオン』、これら高いポピュラリティを獲得した作品は、「まるでパターンと化したみたいに、はじめの視聴率は上々といえず、だがコアなファンたちは熱烈な話題の的として――やがてアニメを知らない一般の人までも巻き込んでゆく」。歴史は繰り返すようだが、「時代は超光速で変化」していく。“物語”の表現方法に対する時代の変化を、潔く受け入れていく著者の態度は、ただ単に謙虚というのでなく、自身の内省をを通じて、来るべき“時代”の予兆を感じ取るという意味合いにおいて、貴重なものだろう。これには、テレビ放映開始期から目の当たりにしてきた、先行するメディアによる後発の表現媒体への無理解に対する憤りがある。ともあれ、草創期におけるTVアニメに、SF・推理文壇のの錚々たるメンバーがコミットしていたという歴史の一断片もふくめて、アニメというサブカルチャーに集った数多のクリエイターたちの名前を見ているだけで、めまいを覚えます。