十川幸司『来るべき精神分析のプログラム』(講談社選書メチエ)レビュー

来るべき精神分析のプログラム (講談社選書メチエ)

来るべき精神分析のプログラム (講談社選書メチエ)



 内容はタイトルのとおり。やっぱり精神分析にたずさわる人向けだと思うけれども、こちとらの関心は、精神分析家の眼に、現在におけるわたしたちの“私”はどう生じているか、であります。著者の場合、発達段階を基準にして、感覚、欲動、情動そして言語の四つの回路からなる作動システムとして“私”をとらえる。このうち、「情動」の回路は、ゾーエ=生物学的な身体と社会システムを媒介し、これにより「言語」の回路は、生物学的な身体の内部に入り込む。ようするに、コミュニケーション・システムがそのように成立していることにより、分析家がそれをつたって、患者の身体症状を取り除きうる、というのが核心の部分。このパースペクティブで、様々な症例症状が解説されていく。現代における“環境”の変容で、症状自体の軽重の度合や質、相対的な正常/逸脱の境界も変質している。システムとしての“私”という観点からは、逆に“私”の危機から社会システムの危機の兆候を感得できるかどうか、それは、分析家の賭け金にはならないだろうけれども。