北村薫『鷺と雪』(文藝春秋)レビュー

鷺と雪

鷺と雪



 あとがき代わりの「参考文献」の頁の末尾「ことを見つめるのは人である。これらの様々な出来事の中に、登場人物達はいた」という一文のために、このシリーズが生み出されたのではないか、と一瞬思う。おそらくは、作者にとって“日常の謎”とは、「ことを見つめる」人と人の交流と断絶の謂いなのだろう。大正デモクラシーの延長上にあった昭和初期の幕切れとともに物語も閉じられるが、“断絶”の深さは、たぶん「登場人物」たち自身もそうと意識できぬほど、逆に諸々の情景にその不吉さを感じとるほど、果てないものだった。