河合宏一『ユニオンジャックの政治パワー』(日本経済新聞出版社)レビュー

ユニオンジャックの政治パワー

ユニオンジャックの政治パワー



 UKの議会制民主主義の現在的な構造が、詳らかにされて興味深い。先日、保守党と自由民主党との連立政権が出来て、そら二大政党制はもう限界だというような論調が、反小沢の文脈を隠そうとせずに出てきているが、前にも述べたように、一極化よりも二極化のほうが良いわけで、多極化が実質的に一極化を支え、あるいは霞ヶ関統治を許すとしたら、闘技的民主主義だなんだかんだと言ったところで、無意味無力な言説だ。そんなものより、本書の英国政治観察のほうが、様々な示唆を与えてくれる。重要なのは、内閣改造ごとに省庁再編が目論まれていることで、官僚に特定省庁に対する帰属意識があまりない、人的流動性はあるものの、彼らの生活は保障されているので、抵抗が少ない、ということだろう。飯尾潤が指摘したように、日本の官僚は、管轄する業界団体の利害代弁者としての側面を持っているとともに、周知のように独立行政法人特別会計などにより、省庁利権を構造化してきた。ここのところをバッサリいく代わりに、個々の政治家の能力を不断に磨き上げなければならない。手垢のついた提言になるが、高邁な政治思想を弄ぶ立場から、民主政の“現在”の袋小路を嘆くのは、シニシズム以外の何者でもない。英国の限界と、日本の限界には、彼我の違いがあるように思われる。