山口雅也『モンスターズ』(講談社)レビュー

本日のエピグラフ

 「いや、慰めはいらん。わしの暗い世界観など忘れて、眼の前のモンスターを倒すんだ。隠れ場所が必要なら、わしの研究室を提供しよう。他に敷地内の恰好の隠れ場所を教えてもいい。(…)」(「モンスターズ」P326より)

モンスターズ

モンスターズ


 
ミステリアス
クロバット
サスペンス
アレゴリカル10
インプレッション
トータル46


表題作は、過ぎし日の異形の者たちの残影を、懐かしみながら、“技術”が全面的にモンスタライズされる前夜の不吉さの中で描き出す。なるほど、「透明人間」が、そういう寓意を持つなら、レヴィナスは「透明人間」を讃えただろう。そして、ハイデガーは、やはり“不気味なもの”として、排除しただろうか――。哲学的寓喩と絶妙なアクロバティックな技巧の止揚。冒頭の「もう一人の私がもう一人」には、思わず身悶え。思ってみれば、ドッペルゲンガーは、フロイトが“不気味なもの”と措定したのだった。このふたつの作品に挟まれた四編は、ある種の“欲望”をめぐる物語として、作者らしいギミックを仕掛けた絶品。