2014-01-01から1年間の記事一覧

大門剛明『テミスの求刑』(中央公論新社)レビュー

テミスの求刑作者: 大門剛明出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/08/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る リーガル・ミステリに強烈なツイストを加えて、展開は予断を許さず、ギミック構築も十二分に満喫できる出来映え。ただ、小説…

三津田信三『どこの家にも怖いものはいる』(中央公論新社)レビュー

どこの家にも怖いものはいる作者: 三津田信三出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/08/08メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る ホラーの定型的プロットは、日常を攪乱する表象をバラ撒いたうえで、さらに物語の結構それ自体を不条理な領…

2014年9月版

全部五つ星。マクロイのは、ニーチェがハイデガーを殺すような小説だったね。びっくり。『アレックス』は、今年のド本命だろう。こういう小説は、展開が荒っぽくなくてはイカンのです。ザッツ・スリラー。ケインのは、信頼できぬ語り手テーマを、実はさらに…

菅原和也『柩の中の狂騒』(KADOKAWA)レビュー

柩の中の狂騒 (単行本)作者: 菅原和也出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/08/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る ワタクシ的にはOK。クローズド・サークルテーマが、作者のやりたかったことと微妙に齟齬をきたしているのは…

鯨統一郎『オペラ座の美女  女子大生桜川東子(さくらがわはるこ)の推理 』(光文社)レビュー

オペラ座の美女 女子大生桜川東子(さくらがわはるこ)の推理作者: 鯨統一郎出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/08/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (1件) を見る サブカルネタのテンプレぶりが相変わらず愉しいシリーズ。今回はオ…

折原一『侵入者  自称小説家』(文藝春秋)レビュー

侵入者 自称小説家作者: 折原一出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/09/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る もうホントに無茶というか無理筋を通すような物語展開なんだけれども、こうでなくっちゃ、だわね。マルチテキスト的構成が成…

東川篤哉『魔法使いと刑事たちの夏』(文藝春秋)レビュー

魔法使いと刑事たちの夏作者: 東川篤哉出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/07/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る いいんですよ、こういうことで。倒叙ミステリーの切れ味はじゅうぶん確保されているし、お約束のドタバタは反復ギャグ…

芦辺拓『異次元の館の殺人』(光文社)レビュー

異次元の館の殺人作者: 芦辺拓出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/08/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (7件) を見る 作者の巻末の文章を読む限り、紆余曲折を強いられた感じだが、作者の過去の知的アクロバット全開の作品群を知っ…

麻耶雄嵩『さよなら神様』(文藝春秋)レビュー

本日のエピグラフ 「それで僕が君の望む未来に作り替えたとして、果たして君は作り替えたという僕の言葉を信じるのかい? 最初からこれが真実で、僕を嘘つき呼ばわりして、自分を誑かそうとしたと疑うだけだろうね」(「ダムからの遠い道」p.102) さよなら神…

藤田宜永『喝采』(早川書房)レビュー

喝采 (ハヤカワ・ミステリワールド)作者: 藤田宜永出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2014/07/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 時代の雰囲気としては、この国が政治の季節を収束させて、成長から成熟社会への扉を開け始めた頃の、社会…

岡田秀文『黒龍荘の惨劇』(光文社)レビュー

黒龍荘の惨劇作者: 岡田秀文出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/08/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る ミステリアス8 アクロバット9 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレッション8 トータル39 シリーズ前作『伊藤博文邸の怪事件…

二階堂黎人『クロノ・モザイク』(文藝春秋)レビュー

クロノ・モザイク作者: 二階堂黎人出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/07/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る このようなテーマの作者なりのアプローチが見れた、という関心が勝ったのだった。たとえば、ロジックの構築性に疎外的感覚…

森晶麿『偽恋愛小説家』(朝日新聞出版)レビュー

偽恋愛小説家作者: 森晶麿出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2014/06/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る 面白いです。手が込んでいるわりには、サクサク読めます。予定調和的雰囲気を壊しそうで壊さない、でもガタガタいわす程度のこ…

下村敦史『闇に香る嘘』(講談社)レビュー

闇に香る嘘作者: 下村敦史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/08/06メディア: 単行本この商品を含むブログ (24件) を見る 近年の乱歩賞受賞作の中では、出色の出来映え。有栖川有栖の評価通りの秀作だ。近年、乱歩賞をはじめとする公募新人賞の候補作に、…

2014年8月版

今年は、なんだか創元の上下本ばかり贔屓にしているようになっちゃって。『北京』は、少々苦手だったマンケルが、ぐーっとこっちに寄ってきた印象があって、余計に高評価。ヴァランダーものは、あまり融通が利かなくなったのかも、と思えるくらい、小説に厚…

翔田寛『探偵工女 富岡製糸場の密室』(講談社)レビュー

探偵工女 富岡製糸場の密室作者: 翔田寛出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/08/05メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (1件) を見る 作者がこういうのを書くのは、ナットク。できたら、連作短編集で読みたかったなあ、作者の初期作品を…

伊与原新『磁極反転』(新潮社)レビュー

磁極反転作者: 伊与原新出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/08/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る 極端なパニック小説になるかと思いきや、未曽有の状況下での、リアルな社会的再編成と、集団心理の動揺を濃やかに描いて、何だか文学…

芦沢央『今だけのあの子』(東京創元社)レビュー

今だけのあの子 (ミステリ・フロンティア)作者: 芦沢央出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/07/30メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 連作短編集だけれども、この構成にあまり必然性はないだろう。個々の短編が立っていて、それゆえトータルな…

川瀬七緒『水底の棘 法医昆虫学捜査官』(講談社)レビュー

水底の棘 法医昆虫学捜査官作者: 川瀬七緒出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/07/18メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (9件) を見る 好評シリーズの第三作。第二作目が思い切った設定と展開だったのと比べると、やや食い足りないかも…

笹本稜平『失踪都市 所轄魂』(徳間書店)レビュー

失踪都市: 所轄魂 (文芸書)作者: 笹本稜平出版社/メーカー: 徳間書店発売日: 2014/07/09メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る うわっ。地味目の警察小説シリーズだと思っていたのに、本作は本庁腐敗とのガチバトルだぞ。お約束は、アウトロー…

大沢在昌『雨の狩人』(幻冬舎)レビュー

雨の狩人作者: 大沢在昌出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2014/07/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る まだ書く、こういうのを書く、まだまだ作者の力は衰えていない、枯れていない。作者の、現在に偏在する暴力という事象を剔出するその執…

柳広司『ナイト&シャドウ』(講談社)レビュー

ナイト&シャドウ作者: 柳広司出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/07/09メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る あまりに推薦文を多く載っけると、却って鼻白まれるのではないかしらん。小説の間口が広い作者の新作は、SPを主人公にしたサス…

真保裕一『アンダーカバー 秘密調査』(小学館)レビュー

アンダーカバー 秘密調査作者: 真保裕一出版社/メーカー: 小学館発売日: 2014/06/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 緻密なプロットを組む作者への期待値は満足させてくれる。サスペンスは、予断を許さぬ展開から醸し出されるのが作風だ…

大倉崇裕『蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係』(講談社)レビュー

蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係作者: 大倉崇裕出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/07/10メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (6件) を見る 前作から四年ぶりの新作は長編で、現実事件のパロディ的設定も、ファース要素を…

2014年7月版

やっぱりこいつを一等賞に挙げなきゃアカンのだろうなあ。『駄作』っていうのは、小説の創作講座で一番始めに読ませて、生半可な作家志望者を挫折させるために書かれた、というのであれば、ひどく納得するけれども。『セバスチャン』は、シナリオライターの…

石持浅海『御子を抱く』(河出書房新社)レビュー

御子を抱く作者: 石持浅海出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2014/07/14メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 前著『二歩前を歩く』を読んで、作者はこっちの方向性にいきたいのかなあ、と思ったりしたのだった。ただ、本作にしてもそうだ…

樋口有介『金魚鉢の夏』(新潮社)レビュー

金魚鉢の夏作者: 樋口有介出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/06/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る なんともユーウツでちょいダウナーな気分にさせられる、作者の描いた近未来日本。小説の上手いひとが、日本社会の袋小路を書かざるを…

大沢在昌『ライアー』(新潮社)レビュー

ライアー作者: 大沢在昌出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/04/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 最近渋めの作品が続いた作者の、ノンストップ・スリラー。いやでも、女性主人公で相変わらずエッジの利いたのを書いてくれますな。何気…

長沢樹『リップステイン』(双葉社)レビュー

リップステイン作者: 長沢樹出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2014/06/18メディア: 単行本この商品を含むブログ (12件) を見る 作者の追求しようとしている小説のニュアンスが、前面に出てきた感じ。ロマンティックな切り口が、現在的な悪意の跳梁を矯めて一…

岸田るり子『パリ症候群 愛と殺人のレシピ』(講談社)レビュー

パリ症候群 愛と殺人のレシピ作者: 岸田るり子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/06/11メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る いいですね。ギミックの構築と関係性のパトスの絡ませ方が堂に入ってます。悪意、というより、情況にか…