2014-01-01から1年間の記事一覧

乾くるみ『セブン』(角川春樹事務所)レビュー

セブン作者: 乾くるみ出版社/メーカー: 角川春樹事務所発売日: 2014/05/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る 作者の前著である短編集は、学園ミステリというフォーマットがありながら、どこか焦点が合っていない印象があった。本書はバラエ…

鯨統一郎『冷たい太陽』(原書房)レビュー

本日のエピグラフ 「これは空想で書かれたものじゃない。すべて本当のことだ」/(…)/「小説だったら探偵社じゃなく出版社に送るだろ」(p.191) 冷たい太陽 (ミステリー・リーグ)作者: 鯨統一郎出版社/メーカー: 原書房発売日: 2014/06/13メディア: 単行…

近藤史恵『胡蝶殺し』(小学館)レビュー

胡蝶殺し作者: 近藤史恵出版社/メーカー: 小学館発売日: 2014/06/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る 作者の十八番という期待値込みで読むと、それは叶えられるが、それよりも思わぬところにカタルシスを企図されて、意表を突かれた感が…

西澤保彦『下戸は勘定に入れません』(中央公論新社)レビュー

下戸は勘定に入れません作者: 西澤保彦出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/05/23メディア: 単行本この商品を含むブログ (7件) を見る いかにも作者らしい特殊論理の構築の仕方と、それによって巻き起こる悲喜劇の演出ぶり。作者が、緻密な論理的展開…

2014年上半期本格ミステリベスト5

2014年上半期(2013年11月〜2014年4月)のまとめだけれども、今年に入ってから読書の比重を変えて、ミステリーのウェイトを半減させたのだった。それで翻訳ものの数を増やしたので、日本ミステリの読書量は激減している。が、それでもベスト5を組めるだ…

麻見和史『聖者の凶数 警視庁捜査一課十一係』 (講談社ノベルス)レビュー

聖者の凶数 警視庁捜査一課十一係 (講談社ノベルス)作者: 麻見和史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2013/12/05メディア: 新書この商品を含むブログ (4件) を見る シリーズ第一作を取り上げて以来だけれども、本作も含めて既刊五冊はいずれも高いアベレージを…

2014年6月版

まずはボルトンの新作で、ホラーテイストたっぷりの味付けに、満腹満足。このひと、もっとコワいもの書いてくれそうな気がする。と、今月この後読んだ本がモノホンのホラーだったり(笑)、いろいろとヘンな物件にぶち当たったこともあって、メイスンに癒さ…

森晶麿『COVERED  M博士の島』(講談社)レビュー

COVERED M博士の島作者: 森晶麿出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/04/16メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る まあ、ミステリーというより、ホラーなんでしょう。設定が極端な分、サスペンスが小説を盛り上げるには至らないけれども、作者…

法坂一広『最終陳述』(宝島社)レビュー

最終陳述作者: 法坂一広出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2014/04/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 作者の本領発揮であろう力作で、従来型の法廷ミステリの間隙を突くような出来。性善説的な物語のまとめ方を、トリッキーな手際で実現さ…

真梨幸子『人生相談。』(講談社)レビュー

人生相談。作者: 真梨幸子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/04/15メディア: 単行本この商品を含むブログ (14件) を見る 面白い。露悪系ミステリで我が道を行く作者が、あからさまなまでにギミックを利かせると、本当に小説全体がお化け屋敷っぽくなると…

山下貴光『イン・ザ・レイン』(中央公論新社)レビュー

イン・ザ・レイン作者: 山下貴光出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/04/09メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 作者の前作『シャンプーが目に沁みる』もそうだけれども、小説の上手さ、安定感は抜群なのだが、物語にどこか予定調和的なニュ…

叶紙器『回廊の鬼』(光文社)レビュー

回廊の鬼作者: 叶紙器出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/04/18メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (2件) を見る 福ミス受賞後第一作。本格ミステリ的な要素と、中盤のパニック型サスペンスの、物語的な整合性が取れているとはいい難い…

貫井徳郎『私に似た人』(朝日新聞出版)レビュー

私に似た人作者: 貫井徳郎出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2014/04/08メディア: 単行本この商品を含むブログ (23件) を見る いわゆるアルカイーダと呼ばれるイスラム過激派テロ組織は、実はCIAが、相互に独立して動いているテロ集団のネットワーク…

湊かなえ『豆の上で眠る』(新潮社)レビュー

豆の上で眠る作者: 湊かなえ出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/03/28メディア: 単行本この商品を含むブログ (20件) を見る 作者自身のドメスティック・スリラーの行き方を、過不足なく示した感じ。このプロットを短編でやれば、ギミックのソリッドさが際…

大屋雄裕『自由か、さもなくば幸福か? 二一世紀の〈あり得べき社会〉を問う』(筑摩選書)レビュー

自由か、さもなくば幸福か?: 二一世紀の〈あり得べき社会〉を問う (筑摩選書)作者: 大屋雄裕出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2014/03/12メディア: 単行本この商品を含むブログ (47件) を見る 前作『自由とは何か』から七年、続編ともいうべき著作がやっと…

深水黎一郎『世界で一つだけの殺し方』(南雲堂)レビュー

世界で一つだけの殺し方 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)作者: 深水黎一郎出版社/メーカー: 南雲堂発売日: 2013/12/17メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル8 インプレッシ…

2014年5月版

やっと読めた、じむけりサンの本は、やっぱり面白かったです。サスペンスの醸成の上手さと、それが緊密なプロットに結び付く様の見事さ。原題のニュアンスがいいね。『Q』は、リーダビリティが抜群なので、ポンニチの我々は、とりあえず中世の血生臭い歴史…

大崎梢『忘れ物が届きます』(光文社)レビュー

忘れ物が届きます作者: 大崎梢出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/04/18メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (5件) を見る 作者らしい、たおやかさを満喫するけれども、読了後、急速に印象が薄れた。たぶん、作者が半ば意図的にアクの強…

伊与原新『博物館のファントム 箕作博士のミステリ標本室 』(集英社)レビュー

博物館のファントム 箕作博士のミステリ標本室作者: 伊与原新出版社/メーカー: 集英社発売日: 2014/01/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 宮沢賢治の話が個人的には面白い。一編一編かっちりとまとまった短編集で、純粋な衒学性を可能に…

道尾秀介『貘の檻』(新潮社)レビュー

貘の檻作者: 道尾秀介出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/04/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (22件) を見る 作者にとって久々の本格ミステリーということになるのだろうが、むしろ、近年作者が鍛え上げたリリシズムが、サスペンスの器を瑞々しく…

笹本稜平『逆流 越境捜査』(双葉社)レビュー

逆流 越境捜査作者: 笹本稜平出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2014/03/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る シリーズ新作は、物騒な幕開けをするが、あれよあれよという間に、権力者の犯罪醜聞へと、プロットは転がる。濃密な捜査サスペン…

青崎有吾『風ヶ丘五十円玉祭りの謎』(東京創元社)レビュー

風ヶ丘五十円玉祭りの謎作者: 青崎有吾出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/04/20メディア: 単行本この商品を含むブログ (20件) を見る なんというか、日常の謎系が作者の新境地、という版元のPRの思惑とはウラハラに、まだ若い作者が編集者からプレ…

伊坂幸太郎『首折り男のための協奏曲』(新潮社)レビュー

首折り男のための協奏曲作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/01/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (23件) を見る この作者が、“暴力”なるものに意識を巡らせているのが、痛いほど感得できる短編集だ。作者が、“暴力”という表象を小…

似鳥鶏『迫りくる自分』(光文社)レビュー

迫りくる自分作者: 似鳥鶏出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/02/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (7件) を見る ドッペルゲンガー的ホラーと逃走劇の合わせ技で、読者をいつの間にか“あり得ない”方向性へ導くサスペンスフルなプロ…

黒川博行『破門』(KADOKAWA)レビュー

破門 (単行本)作者: 黒川博行出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/02/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (22件) を見る 作者の看板シリーズの最新作。痛快ピカレスク小説の王道というか無軌道ぶりを愉しめるけれども、でもやっぱり王道と…

坂木司『僕と先生』(双葉社)レビュー

僕と先生作者: 坂木司出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2014/02/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る シリーズ前作から七年ぶり。日常の謎系の物語を上手くまとめ上げるのに、ミステリーの構築感をしっかり残すのは、やはりセンスのある人…

薬丸岳『刑事の約束』(講談社)レビュー

刑事の約束作者: 薬丸岳出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/04/16メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 夏目刑事ものの新作短編集。このシリーズでは、クック的なリリカルな小説世界に傾斜してきたようだ。「無縁」と「終の住処」にそれが顕…

大門剛明『獄の棘』(KADOKAWA)レビュー

獄の棘 (単行本)作者: 大門剛明出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/02/28メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 刑務所内部という特殊な領域で起こる事件を描いた連作短編集。囚人と刑務官の織り成す小社会の諍いと欺瞞は、しばし外部と…

伊岡瞬『代償 』(KADOKAWA)レビュー

代償 (単行本)作者: 伊岡瞬出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店発売日: 2014/03/25メディア: 単行本この商品を含むブログを見る モンスター的キャラに罪のない人たちが虐げられる話は、基本的にイヤなのだが、本作は二部構成を採ることにより話のメリハリが…

香納諒一『無縁旅人』(文藝春秋)レビュー

無縁旅人作者: 香納諒一出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/03/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 『贄の夜会』から8年ぶりのシリーズ続編ということであれば、帰ってきた、という枕詞を使いたくなるが、本作は前作と違い、正道の社…