国外ミステリフォロー

2013年4月版

ウォルターズのは、評判通りの傑作。女性作家の性差は、パニック小説を書くときに露骨に表れると前々から思っていたけれども、ますます確信が深くなった。『雪の女』は、フィンランド発、社会の諸相を串刺しにするスタンスをオーソドックスに受け継ぎながら…

2013年3月版

クックは相変わらずええなあ。ミステリファンの郷愁を誘ってくれているところが、律儀ですよね。クックの関心がこういうところに移ってきているのは、何となく想像できなくない? 『護りと裏切り』は、後半、法廷劇のダイナミズムを味わえる。こうでなくっち…

2013年2月版

『ケンブリッジ・シックス』は、イギリスの諜報戦のトラウマが、国際政治上の外敵の形象と直結しているということが分かり、面白い。サスペンスも途切れることはなく、大満足。『六人目の少女』は、やや中だるみの感があるけれども、ギミック重視の作風はな…

2013年1月版

『喪失』は、読者を引き付けるイベントやガジェットを次々と投入してくる印象があり、エドガー賞受賞も頷けるけれども、小説の吸引力が増すのは後半からかな。『白鳥泥棒』は、大部の作品ながら、翻訳文がこなれていて上質なので、臆せず読み進めてほしい。…

2012年12月版

今年のシメはバルガス=リョサで決まり。呪術的世界に対する諦観的なニュアンスを感じ取ってしまうのは、深読みのしすぎかしらん。巻末の訳者解説は懇切だけれども、ゆえにややネタバレ気味なのでご注意を。ウィンズロウのは、今年の翻訳ミステリで一番楽しく…

2012年11月版

読み終わって、虚心にああ面白かったと嘆ずることのできる作家って、ディーヴァーくらいしかいないんだよねえ。シリーズのターニング・ポイントを迎えた感がある。『首斬り人の娘』は近世南部ドイツを舞台にした歴史スリラー、ノリは重厚感とは一線を画した…

2012年10月版

ピースの三部作第二弾は、アンチ・クライムノベルと銘打たれる。法はどこだ。無法な世界では、一体何が葬り去られるのか――。ボルトンのはスペシャリストものの醍醐味を堪能。いやほんとにヘビづくしで、ごちそうさま、って感じです。トゥローのは、なんとも…

2012年9月版

『ダークサイド』は、サイコスリラーだけれども、話の膨らませ方が上手い。日本人作家だと、まだこういかないんだよね。デュレンマットのは、初訳のよりも、改訳作品のほうがとっつきがいい。政治的なるものをめぐる寓話。政治、といえば『鷲たちの盟約』で…

2012年8月版

『サファリ』は、南アフリカのミクロコスモスを覗く興味が大だけれども、定石的な展開がダレないのがいい。PR文の強気ぶりがわかる。ローザンのは邦題がいい感じ。得体のしれない敵に振り回されるポジションからの逆襲ぶりにサスペンスの焦点が絞られる。…

2012年7月版

警察小説の某話題作を差し置いて、『死せる獣』を挙げたのは、少しヘンな方向に展開していくのに、退屈しなかったので。サスペンスを期待するなら、ディーヴァーで、コンセプトの冴えとツイストの利かせ方の合わせワザ。職人芸。ギミックを期待するなら『世…

2012年6月版

今月の三冊は全部五ツ星。『骨の刻印』は、スペシャリスト的アプローチから閉鎖状況下のサスペンスに移っていく手際のよさと、共同体の暗部の滲み出し方が物語のテンションをさげていないのがいい。『暴行』は、ハイスミス読者にはたまらないだろう。人生の…

2012年5月版

『脱出空域』は快速一気読み。ザッツ・スペクタクル。ウィンズロウのは、気分はもう、さようなら、ギャングたち。っていうか(笑) でも、諸々のモードの断片の撒き散らし方が、物語の緩急の具合にきっちりハマっていて、上手いね。フィツェックのは、いろんな…

2012年4月版

注目されている某スリラーを読んだけれども、イマイチのれなかった。それより『火焔の鎖』のほうが、十二分にサスペンスフル。輻輳するプロットが、すべてサスペンスの醸成に貢献して、空転していない。ビンテージ本格を横目にしつつ『冬の灯台』を挙げるの…

2012年3月版

ウォルターズのは、稠密な筆致で人間の関係性の不全と挫折の様相を描き出した力作。原題「ザ・ブレイカー」にいろいろな意味を含ませているのに留意。ハートのは、対照的な作品ですね。まあ、泣けること泣けること。家族小説と成長小説と犯罪小説を緊密に盛…

2012年2月版

今月読んだ中では、『ミスクラ』がいっとー面白い。エキゾチズムに魅了される側面があるにせよ、話のスジの良さで。『大仕事』は、かくも典雅な、という感じ。ニコブレの『ワン悪』よりも、こっち。『ロスシテ』は、純文学だけれども、いくつかの話題作より…

2012年1月版

当ブログは国内ミステリがメインですが、今月から、その月に読んだ翻訳ミステリの中から目ぼしいものを3作程度、コメントレスでまとめてフォローします。ずいぶんの間、翻訳ものはベストテンで挙がったもののなかから、目に付いたものをフォローしていた状…