2013-01-01から1年間の記事一覧

伊坂幸太郎『死神の浮力』(文藝春秋)レビュー

死神の浮力作者: 伊坂幸太郎出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/07/30メディア: ハードカバーこの商品を含むブログ (49件) を見る 浮かぶものと沈むもの。いや、浮かべるものが、沈めさせることができるのだろう。作者が、不条理な暴力性を何度も主題に…

松井今朝子『壺中の回廊』(集英社)レビュー

壺中の回廊作者: 松井今朝子出版社/メーカー: 集英社発売日: 2013/06/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 小説の上手さは、濃やかな描写もさることながら、それがテンポというか、言葉配りの調子を整えることに基礎づけられており、読んで…

逢坂剛『バックストリート』(毎日新聞社)レビュー

バックストリート作者: 逢坂剛出版社/メーカー: 毎日新聞社発売日: 2013/06/24メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る お懐かしや岡坂神策シリーズ最新作。分厚いけれども、快速で一気読みできる。作者の教養を見せつけられながらも、小説の内実…

周木律『眼球堂の殺人 〜The Book〜 』(講談社ノベルス)レビュー

本日のエピグラフ 「(…)神でさえも、ただ書き写すことしかできなかったものが、ザ・ブックなのさ。だから君も、神の実在はともかく、ザ・ブックの実在だけは、是非とも信じたほうが良い。いや、信じろ」(p.15) 眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社ノベルス)作者…

竹内真『図書室のキリギリス』(双葉社)レビュー

図書室のキリギリス作者: 竹内真出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2013/06/19メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (11件) を見る いやー、涙がちょちょぎれるほど、懐かしい本のタイトルが。マガーク少年探偵団は、くるねえ。ブッキッシュ…

加納朋子『はるひのの、はる』(幻冬舎)レビュー

はるひのの、はる作者: 加納朋子出版社/メーカー: 幻冬舎発売日: 2013/06/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (19件) を見る 作者の完全復調を期待させる連作短編集。シリーズとしては第三作目だけれども、インターバルを置いたのが、作中の体感的なリ…

貫井徳郎『ドミノ倒し』(東京創元社)レビュー

ドミノ倒し作者: 貫井徳郎出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2013/06/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る 軽ハードボイルドだけれども、もっとファース仕立てでもよかったかも。イノセントな共同体意識に囚われる道化となって、探偵の…

2013年7月版

キングの二分冊中編集は、『ドライバー』のほうが個人的にはいい。情念と衝動を走らせることの生々しい肯定と、過酷な喪の仕事をきっちりと描いた職人芸。『ピーナッツ』は、すぐそばにいる“他者”をめぐる愛憎と妄執の心理スリラー。小説の(脱)構築性とディ…

長岡弘樹『教場』(小学館)レビュー

教場作者: 長岡弘樹出版社/メーカー: 小学館発売日: 2013/06/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (27件) を見る この作者の小説は、初期のものから読んでいて、特にデビュー短編集はバラエティがあって愉しめただけに、本書のように、いかにも無骨で渋…

今野敏『宰領 隠蔽捜査5』(新潮社)レビュー

宰領: 隠蔽捜査5作者: 今野敏出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/06/28メディア: 単行本この商品を含むブログ (10件) を見る 改めて、この主人公を一人称で書くことに、作者がどれほどの賭け金を払っているかに思いを致し、敬服してしまう。深慮と矜持が重…

西澤保彦『ぬいぐるみ警部の帰還』(東京創元社)レビュー

ぬいぐるみ警部の帰還作者: 西澤保彦出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2013/06/11メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル8 インプレッション8 トータル39 論理のアクロバットの…

田中啓文『シャーロック・ホームズたちの冒険』(東京創元社)レビュー

シャーロック・ホームズたちの冒険作者: 田中啓文出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2013/05/30メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る ミステリ・パロディにホラーを持ってこられるのは、強いよね。忠臣蔵のやつは、オチに感涙。八雲のやつは…

加藤典洋 高橋源一郎 『吉本隆明がぼくたちに遺したもの 』(岩波書店)レビュー

吉本隆明がぼくたちに遺したもの作者: 加藤典洋,高橋源一郎出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/05/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る 高橋は詩作家としての像から、吉本思想にアプローチして、加藤は思想家としての像から、それをす…

〈疎外〉社会の政治学

吉本隆明は、名著『カール・マルクス』において、「人間の自然にたいする関係が、すべて人間と人間化された自然(加工された自然)となるところでは、マルクスの〈自然〉哲学は改訂をひつようとしている」と述べている。「つまり農村が完全に絶滅したところで…

筒井康隆『聖痕』(新潮社)レビュー

聖痕作者: 筒井康隆出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/05/31メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る 要するに、去勢小説なワケです。日本の現代史と主人公を重ね合わせる意図は露骨だけれども、3・11から逆算して、ゆるやかな終末的観想…

折原一『グランドマンション』(光文社)レビュー

グランドマンション作者: 折原一出版社/メーカー: 光文社発売日: 2013/05/18メディア: 単行本この商品を含むブログ (8件) を見る この大ベテランが、最近またアグレッシブになっている気がする。本作は、紛れもなく近年のベストで、本格からホラーからブラッ…

江國香織『はだかんぼうたち』(角川書店)レビュー

はだかんぼうたち作者: 江國香織出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)発売日: 2013/03/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る “物語”の内容だけ見てみれば、ストーリーラインを追うのを強いる構成になっているかと思いき…

石持浅海『わたしたちが少女と呼ばれていた頃』(祥伝社ノン・ノベル)レビュー

わたしたちが少女と呼ばれていた頃 (碓氷優佳シリーズ)作者: 石持浅海出版社/メーカー: 祥伝社発売日: 2013/05/16メディア: 新書この商品を含むブログ (12件) を見る 外見はラノベ仕様、と思わせておいて、内容は作者の逆説のアクロバットが唸るうなる。もは…

2013年上半期本格ミステリベスト5

2013年上半期(2012年11月〜2013年4月)は、結構な感じでタマが揃いました。ベテランと新鋭、ちょうどバランスがとれた格好。でも、いちばんキタのは、中町信のブレイクだったり(他の作品も売れてほしいなあ)。 犯罪ホロスコープII 三人の女神の問題 (カッ…

松本寛大『妖精の墓標』(講談社ノベルス)レビュー

本日のエピグラフ 「妖精というのは一種の幻覚なのでしょうか」/「幻覚といえば幻覚、夢といえば夢なんでしょうが、そうした単純なものでもありません。もっと実在感があるし……」(p.44) 妖精の墓標 (講談社ノベルス)作者: 松本寛大出版社/メーカー: 講談社…

深津十一『「童石」をめぐる奇妙な物語』(宝島社)レビュー

「童石」をめぐる奇妙な物語 (『このミス』大賞シリーズ)作者: 深津十一出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2013/03/11メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 今年のこのミス大賞の優秀作はイケる、という評判があるみたいなので。文章センスは抜群。平易…

北山猛邦『人魚姫 探偵グリムの手稿』(徳間書店)レビュー

人魚姫 探偵グリムの手稿作者: 北山猛邦出版社/メーカー: 徳間書店発売日: 2013/03/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル8 インプレッション7 トータル38 もうちょっとディテ…

2013年6月版

『シスブラ』は、思いのほか軽妙な文体がイノチの作品。単なるノワール系ロード・ノベルではなく、アウト・ロー、法‐外なものたちの抱える滑稽さと悲哀に焦点が絞られ、まとまりがいいのだ。われらがホームズもまた、法‐外な者だったことを改めて教えてくれ…

川中大樹『ラストボール』(光文社)レビュー

ラストボール作者: 川中大樹出版社/メーカー: 光文社発売日: 2013/03/16メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログを見る 受賞後第一作目は、デビュー作と趣きを変えて、ストレートなスポーツ・ミステリ。各登場人物の面立ちがくっきりとしてい…

前川裕『アトロシティー』(光文社)レビュー

アトロシティー作者: 前川裕出版社/メーカー: 光文社発売日: 2013/02/16メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 受賞後第一作目。おぞましい暴力の偏在する世界を描いて、読者をイヤーな気分にさせるが、結末はミステリーとしてマトモに収斂する…

中山七里『切り裂きジャックの告白』(角川書店)レビュー

切り裂きジャックの告白作者: 中山七里出版社/メーカー: 角川書店発売日: 2013/04/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (12件) を見る ここのところ、同じ題材を扱ったものをえらく読んでいるのだけれども、どういうブームなんだろう。ということはさて…

水生大海『熱望』(文藝春秋)レビュー

熱望作者: 水生大海出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2013/04メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 人生の転落譚という感じがしないのは、作者の鋭利な視点が、人間の欲得の交錯を剔抉しているからで、つまりは、(反)教養小説という枠組みを外してい…

有栖川有栖『幻坂』(メディアファクトリー)レビュー

幻坂 (幽BOOKS)作者: 有栖川有栖出版社/メーカー: メディアファクトリー発売日: 2013/04/12メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る 本格ミステリ以外では、結構、融通無碍に振る舞っている印象がある作者だけれども、改めて怪談集を上梓するとな…

月原渉『月光蝶 NCIS特別捜査官』(新潮社)レビュー

本日のエピグラフ 「今回の一連の事件では、基地の内と外を隔てる観念の壁が、内外の正義をも分かちました。それは真実から遠ざかる術であって、真実に寄りそう方法ではありません。(…)」(p.243) 月光蝶―NCIS特別捜査官作者: 月原渉出版社/メーカー: 新潮社…

藤田宜永『風屋敷の告白』(新潮社)レビュー

風屋敷の告白作者: 藤田宜永出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2013/05/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 竹花シリーズと対をなすような、バディものの登場。本作の前日談にあたる短編集は未読だけれども、これからでも十分愉しめる。設定…