2015-01-01から1年間の記事一覧

周木律『アールダーの方舟』(新潮社)レビュー

アールダーの方舟作者: 周木律出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/12/18メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 作者の持っているカードが、小説の雰囲気作りに全面的に貢献したのだろう。PR文の「壮大な」前フリにしては、タイトにまとまっ…

2015年2月版

ハンターの新作は、個人的には重量感を感じた方。いやしかし、風呂敷の拡げ方で、サスペンスを醸成させる手際の心憎いことといったら。セバスチャン第二作は、期待を裏切らないけれども、もっとタイトにできる気がする。まあでも、賑々しいあそびの部分と捉…

貫井徳郎『我が心の底の光』(双葉社)レビュー

我が心の底の光作者: 貫井徳郎出版社/メーカー: 双葉社発売日: 2015/01/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る クライム・ノベルである。が、そこは作者のこと、犯罪の昏いリアリティを演出しながら、従来の犯罪小説のある種のイメージを裏切…

赤瀬川原平『妄想科学小説』(河出書房新社)レビュー

妄想科学小説作者: 赤瀬川原平出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2015/01/27メディア: 単行本この商品を含むブログ (4件) を見る 80年代前夜に連載された、マボロシの掌編小説(からのエッセー)集。シュールさの追求は、エコノミーのロジックのほんの少し…

滝田務雄『田舎の刑事の好敵手』(東京創元社)レビュー

田舎の刑事の好敵手 (ミステリ・フロンティア)作者: 滝田務雄出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/12/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る ミステリアス8 アクロバット8 サスペンス7 アレゴリカル7 インプレッション8 トータル3…

江國香織『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』(朝日新聞出版)レビュー

ヤモリ、カエル、シジミチョウ作者: 江國香織出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2014/11/07メディア: 単行本この商品を含むブログ (13件) を見る 作者の筆致は、まさに大家というに相応しい、悠々たるもの。ある種の繊細さは、社会通念で満たされた世界…

下村敦史『叛徒』(講談社)レビュー

叛徒作者: 下村敦史出版社/メーカー: 講談社発売日: 2015/01/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 近年の乱歩賞受賞作のなかでも高評を得たデビュー作よりインターバルを短くして受賞後第一作が出たのが嬉しい。内容は警察小説というより、…

矢作俊彦『フィルムノワール/黒色影片』(新潮社)レビュー

フィルムノワール/黒色影片作者: 矢作俊彦出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/11/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (5件) を見る ポンニチの小説的なるものが、大なり小なりラノベ的表象性に侵されていく現在、この作者は、まさしく反時代的存在と…

佐藤正午『鳩の撃退法  上・下 』(小学館)レビュー

鳩の撃退法 上作者: 佐藤正午出版社/メーカー: 小学館発売日: 2014/11/13メディア: 単行本この商品を含むブログ (17件) を見る鳩の撃退法 下作者: 佐藤正午出版社/メーカー: 小学館発売日: 2014/11/13メディア: 単行本この商品を含むブログ (15件) を見る メ…

近藤史恵『私の命はあなたの命より軽い』(講談社)レビュー

私の命はあなたの命より軽い作者: 近藤史恵出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/11/13メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (8件) を見る ストレートな心理サスペンス、というわけではない。ドメスティック・スリラーとも、一線を画すだろ…

2015年1月版

シーラッハは、改めて、どういったものを書いてくるのか、予想がつかない印象を持ったわけで、司法小説を専門としているひとが、芸術小説的アプローチを埋め込んで、重厚感を醸し出しているのだから、いやはや。ディヴァインの初期作品は、小説的な思わせぶ…

北森鴻 浅野里沙子『天鬼越 蓮丈那智フィールドファイルV』(新潮社)レビュー

天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV作者: 北森鴻,浅野里沙子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/12/22メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 北森の未収録短編二本と、原案を浅野がノベライズした表題作と、衣鉢を継いだオリジナル短編三本…

鳥飼否宇『死と砂時計』(東京創元社)レビュー

本日のエピグラフ 「あやうく焼却処分されそうになったのを、研究用という名目で引き取って、自分の手元に置いておくことにした。医師の役得だな。メメント・モリ、『死を忘れるな』という教訓だよ」(p.183) 死と砂時計 (創元クライム・クラブ)作者: 鳥飼否…

安萬純一『青銅ドラゴンの密室』(南雲堂)レビュー

本日のエピグラフ 大ドラゴンとそのまわりの小ドラゴンたちが全身を光輝かせていた。雷がドラゴンたちを生き返らせ、雄叫びを上げさせたのだ。(p.30) 青銅ドラゴンの密室 (本格ミステリー・ワールド・スペシャル)作者: 安萬純一出版社/メーカー: 南雲堂発売…

門井慶喜『注文の多い美術館 美術探偵・神永美有 』(文藝春秋)レビュー

注文の多い美術館 美術探偵・神永美有作者: 門井慶喜出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2014/11/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る シリーズ新作。対象物がホンモノかニセモノか、という真贋判定モノのフォーマットから、いかに巧みに逃…

北山猛邦『オルゴーリェンヌ』(東京創元社)レビュー

オルゴーリェンヌ (ミステリ・フロンティア)作者: 北山猛邦出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 2014/11/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る 前作より七年ぶりの続編だが、率直な感想としては、“世界”の空間性に思ったほど奥行がないので…

細見和之『フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ 』 (中公新書) レビュー

フランクフルト学派 -ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ (中公新書)作者: 細見和之出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2014/10/24メディア: 新書この商品を含むブログ (22件) を見る 思ってみれば、「フランクフルト学派」の入門書って…

麻耶雄嵩『化石少女』(徳間書店)レビュー

本日のエピグラフ 「(…)俺は探偵の手伝いをすると云ったんです。犯人から推理を逆算するなんて、もはや探偵ではありません。(…)」(「第五章 幽霊クラブ」p.281) 化石少女 (文芸書)作者: 麻耶雄嵩出版社/メーカー: 徳間書店発売日: 2014/11/12メディア: 単行…

2014年下半期本格ミステリベスト5

2014年下半期(2014年5月〜10月)は、連城三紀彦の遺作長編二本で、なんとか引き締まった感じ。本格ミステリが、ラノベ的なるものとケーサツ小説的スノビズムに引き裂かれている状況があり、さらに、コストパフォーマンスと訴求性を狙った文庫初刊物の増加…

2014年12月版

クルーガーのは、いやはやじっくり読ませて飽かせない。基本的にアメリカの原罪と対峙するような小説には、弱いんですよ。そこのところは、説得力がすごくあって実に満足しました。ル・カレの新作は、アクチュアルな主題を捌く手際を味わいたい。にしても、…

連城三紀彦『処刑までの十章』 (光文社)レビュー

処刑までの十章作者: 連城三紀彦出版社/メーカー: 光文社発売日: 2014/10/09メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 遺作長編。飽くなき逆転劇の追求は、“他者”なるもののドラマティックな演出、つまりこの逃れ行くことを本質とする位格に、どう…

連城三紀彦『女王』 (講談社)レビュー

女王作者: 連城三紀彦出版社/メーカー: 講談社発売日: 2014/10/29メディア: 単行本この商品を含むブログ (3件) を見る 作者の、90年代後半に雑誌連載された作品で、埋もれていた、というより、作者自身が納得せず未だ埋めていた、というのが実相だろう。完成…

第1位 葉桜の季節に君を想うということ (文春文庫)作者: 歌野晶午出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2007/05/01メディア: 文庫購入: 40人 クリック: 204回この商品を含むブログ (369件) を見る 第2位 厭魅の如き憑くもの (講談社文庫)作者: 三津田信三出版社…

早野龍五 糸井重里『知ろうとすること。 』 (新潮文庫)レビュー

知ろうとすること。 (新潮文庫)作者: 早野龍五,糸井重里出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2014/09/27メディア: 文庫この商品を含むブログ (32件) を見る ぼくは、じぶんが参考にする意見としては、「よりスキャンダラスでないほう」を選びます。「より脅かし…